【書評】大学関連書籍

「「文系学部廃止」の衝撃」を読んだ感想・レビュー

大学職員として必要な知識や情報を蓄積するため、大学関連の書籍を読んでいます。

大学職職員を目指す方の就職・転職活動をするうえでは、大学の「業界研究」を行う必要があります。

そのときに、大学関連の書籍を探している人もいると思うので、ネタバレしない程度に参考に学んだことなどをお伝えしたいと思います。

今回は、「「文系学部廃止」の衝撃」です。

書籍情報の紹介

■タイトル
「文系学部廃止」の衝撃

■著者名
吉見 俊哉

■略歴(書籍刊行当時)
・東京大学大学院教授
・東京大学副学長、大学総合教育研究センター長などを歴任

★書籍リンク

目次

第1章 「文系学部廃止」という衝撃
第2章 文系は、役に立つ
第3章 二一世紀の宮本武蔵
第4章 人生で三回、大学に入る
終章  普遍性・有用性・遊戯性

この本を読んだ理由

  • 「文系」の教育は社会に出てから役に立たないと言われることがあります。
  • これは以前から言われていたことですが、特に注目され始めたのは、2015年6月に文部科学省から出された「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」がきっかけとなっています。
  • 私自身も文系出身であること、私が勤務する大学にも文系学部があることから、改めてこの問題に対する理解を深めたいと思い、この本を読むことにしました。

学んだことや感想

第1章 「文系学部廃止」という衝撃

第1章では、主に以下の内容が記載されています。
・瞬く間に広がった「文系学部廃止」報道
・「通知」批判の背後にある暗黙の前提
・文理の不均衡はいつから構造化?
・法人化後、ますます拡大する文理の格差
・「ミッションの再定義」のなかで文系の未来は?

<特に印象に残ったこと>

  • 実際に文部科学省から出された通知は、それまでに文部科学省から示されていた考え方とあまり変わっておらず、唐突に出てきたものではないことがわかりました。
  • この通知により、各メディアは「文系廃止」を大きく取り上げることになりましたが、メディアの主張をそのまま受け入れるのではなく、自分自身で本当の通知の意味を理解しなければならないと感じました。
  • 日本の「理系重視」の歴史について、戦前や戦後、高度経済成長期など、どのように進んできたかについて、理解が深まりました。
  • 文部科学省の通知にある「組織の見直し」はかなり昔から言われていたことがわかり、大学はなかなか簡単には変われないということも改めて感じました。
  • 文部科学省は、これまでに何度も大学改革の方向性を示していますが、文系が目指すべき前向きな方向性は示せていないということがわかりました。

第2章 文系は、役に立つ

第2章では主に以下のことが記載されています。

・「役に立つ」とはいかなることか
・「役に立つ」の2つの次元
・「人文社会系」と「教養」「リベラルアーツ」の違い
・大学基礎教育の20世紀的変容
・人文社会系は、なぜ役に立つのか

<特に印象に残ったこと>

  • 著者が主張しているように、文系は「長期的には役に立つ学問であり、それを社会に示していかなければならない」ということは、そうあるべきであるし、そうならなければならないと思いました。
  • 「役に立つ」という概念は2つあり、理系が得意とする役に立つ分野と、文系が得意とする役に立つ分野があるという主張は、まさにそのとおりだと思いました。
  • 一般的に「文系=教養」みたいなイメージがありますが、そうではないことが改めて理解できました。
  • リベラルアーツ、教養、一般教育という言葉は、同じ意味として使われるケースも多いのですが、それぞれに意味があることがわかりました。

第3章 二一世紀の宮本武蔵

第3章では主に以下のことが記載されています。

・大爆発する大学をとりまく危機
・大綱化・重点化・法人化―新自由主義のなかの大学改革
・誰が大学危機を打開できるのか
・改革は、どこに向かうのか?
・大学は、甲殻類から脊椎動物に進化する
・21世紀の宮本武蔵へ
・宮本武蔵を育成する現場―授業改革

<特に印象に残ったこと>

  • 大学が進んでいくべき選択肢として、3つの方向性を示していますが、特に2つ目と3つ目を選ばなければならない大学は、早期の対応・改革が必要になると思いました。
  • 大学が危機的な状況になっているのは、文部科学省が進めてきた政策が原因となっているという主張について、理解できる部分も多いと感じました。
  • 一方で、文部科学省が何もしなければよかったのかというと、そうでもないと感じました。
  • 企業と大学の組織の特性の違いを示していますが、一般的には、「大学と企業は組織の作り方が異なるので企業と同じようにはいかない」と言われますが、著者はそれだけでなく、大学にも企業と本質的には変わらない構造もあるという主張は新鮮でした。
  • 著者が紹介している国際基督教大学のメジャー・マイナー制度は、実現するのは簡単ではないと思いますが、参考になる事例だと思いました。

第4章 人生で三回、大学に入る

第4章では、主に以下のことが記載されています。

・大学は、人生の通過儀礼か?
・人生のなかに、大学を位置付ける
・人生の転轍機としての大学
・入学者の多様化と学生を主体化する学び
・人文社会系は新しい人生の役に立つ

<特に印象に残ったこと>

  • 大学は、学生が集まらなくなった際に、合格者のハードルを下げ、今まで大学に入れなかった層を入れることになったら、大学は劣化するという主張はまさにそのとおりだと思いました。
  • 著者は、人生に3回くらい大学に入る時代になってもよいと主張していますが、そのようになるには、大学だけでなく、社会全体が変わっていかなければならないと感じました。
  • ただ、2回目の大学への入学が30代だとすると、その時点で収入がなくなるということは現実的でないこと、2回目の大学卒業後に、退職前と同水準の給与を確保することが難しいことを踏まえるとハードルは高いと思いました。
  • 学生を育成していくためには、一定程度は、少人数での教育をする必要があると思います。その際に、教員を一気に増やすことは難しいので、大学院生をうまく活用する仕組みができればよいと思いました。

終章 普遍性・有用性・遊戯性

<特に印象に残ったこと>

  • 大学は「役に立つこと」と同時に「遊び」が大事と主張していますが、「遊び」があることにより、創造性が生まれると思うので、そのような視点も重要だと思いました。
  • 著者の「大学は変わっていかなければならない」という主張は、大学で働く者として、真剣に考えなければならないと感じました。
合わせてチェック

大学職員を目指す方へのオススメポイント

  • 近年の大学職員には、大学を経営していく視点が求められるようになってきています。
  • そのような状況で、大学職員の採用試験の面接の場で、「文系学部をどうしていくべきか」といった質問が、なされる可能があります。
  • そのようなときに、この本を読んでおくことで、面接での回答がスムーズにできるようになると思います。
  • また、文系で学べること、理系で学べることがわかりやく書かれているため、大学とは何かという部分でも勉強になります。
  • 1章と2章については、章の終わりに「まとめ」を記載してくれているので、すごく理解がしやすい本だと思います。

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