「経理の経験は大学職員の転職に有利って聞くけど、本当かな」「民間企業の経理と大学の財務って何が違うんだろう」このような疑問を持つ経理経験者の方からご相談を受けることがあります。
結論から申し上げると、経理経験は大学職員転職において確実に有利です。ただし、民間企業の経理スキルをそのまま持ち込むだけでは評価されません。大学特有の会計基準や業務の進め方を理解し、柔軟に適応できる姿勢を示すことが選考突破の鍵となります。
この記事では、大学職員歴15年・現役面接官として100人以上の転職相談に乗ってきた私が、経理経験者が大学職員に転職する具体的な方法と、選考で評価されるポイントを実例を交えて解説します。
経理経験者が大学職員転職で有利な3つの理由
経理経験者が大学職員の選考で高く評価される理由は、単に「数字に強いから」という表面的なものではありません。面接官の立場から見て、経理経験者に期待する具体的なポイントがあります。
即戦力として財務・会計部門で重宝される
大学の財務・会計部門では、決算業務や予算編成といった専門性の高い業務を担当する人材が常に求められています。特に私立大学では、学校法人会計基準に基づく財務諸表の作成や、補助金申請に関わる会計処理など、専門知識が必要な業務が多数存在します。
民間企業で経理経験がある方は、以下のような基礎スキルをすでに持っているため、大学でも短期間で戦力になれます:
- 複式簿記の原理原則を理解している
- 会計ソフトの操作に慣れている
- 決算スケジュールを意識した業務遂行ができる
- 税務や監査対応の経験がある
実際に、私が面接を担当したケースでは、上場企業で月次決算を担当していた30代の女性が「学校法人会計は初めてですが、複式簿記の原理は同じなので、数ヶ月程度あれば習得できると思います」と答え、高評価を得て内定に至りました。基礎があるからこそ新しい会計基準にも適応できるという安心感が、面接官には伝わったのです。
数字に強い人材は全部署で評価される
大学職員の仕事は財務部門だけではありません。学生支援、入試、広報、研究支援など、あらゆる部署で予算管理やデータ分析のスキルが求められます。経理経験者は数字を扱うことに抵抗がないため、どの部署に配属されても強みを発揮できる点が評価されます。
例えば、学生支援部門では奨学金の予算管理、入試部門では受験者数の分析と予測、広報部門では広告宣伝費の費用対効果測定など、経理的な視点が必要な場面が数多くあります。「この施策にはいくらかかるのか」「費用対効果はどうか」といったコスト意識を持った判断ができる人材は、どの部署でも重宝されます。
私が相談を受けた40代の男性は、メーカーで原価計算を担当していた経験を「学生募集活動の費用対効果分析に活かせます」とアピールし、最終的に入試広報部門に配属されました。彼は入職後、受験者獲得コストを部門別・施策別に可視化し、予算配分の最適化に貢献しています。
簿記資格保有者は書類選考で目に留まる
大学職員の採用では、書類選考の段階で数百名の応募者からそれなりの人数に絞り込むケースが一般的です。この段階で日商簿記2級以上の資格を持っていると、その点を書類選考時に評価されることがあります
簿記資格は単なる知識の証明ではなく、「継続的に学習できる姿勢」「専門性を高める意欲」を示すシグナルでもあります。特に、働きながら簿記1級を取得した方や、税理士試験の科目合格がある方は、高い評価を受けます。
ただし、注意すべきは資格だけでは内定に至らないという点です。簿記1級を持っていても、面接で「数字しか見ていない」「人とのコミュニケーションが苦手そう」という印象を与えてしまうと、不採用になるケースもあります。資格は強みですが、それを「学生のために活かせる」という視点で語ることが重要です。
実際の内定者の中には、「簿記2級を持っていますが、それ以上に前職で後輩に経理を教えた経験があります。大学でも若手職員の育成に貢献したいです」とアピールし、教育力と専門性の両面を評価された方もいます。
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民間企業の経理と大学の財務・会計の違い
経理経験者が大学職員転職で最も戸惑うのが、会計基準や業務の進め方の違いです。この違いを理解せずに「民間企業の経理と同じだろう」と考えていると、入職後にギャップを感じることになります。
会計基準の違い(企業会計と学校法人会計)
民間企業は「企業会計原則」や「会社法」に基づいて会計処理を行いますが、大学を含む学校法人は「学校法人会計基準」に従います。この2つの会計基準には、目的と考え方に根本的な違いがあります。
| 項目 | 企業会計 | 学校法人会計 |
|---|---|---|
| 目的 | 利益の追求と株主への還元 | 教育研究活動の継続と財政の健全性 |
| 決算書 | 貸借対照表・損益計算書 | 資金収支計算書・事業活動収支計算書・貸借対照表 |
| 重視する指標 | 売上高・営業利益・ROE | 帰属収支差額・基本金組入額・収支バランス |
| 減価償却 | 費用として計上 | 基本金に組み入れ(資産として扱う側面が強い) |
特に理解すべきは、「基本金」という概念です。学校法人では、校舎や設備などの固定資産取得に充てた資金を「基本金」として組み入れ、これは原則として取り崩しができません。企業会計では減価償却費として費用計上するものが、学校法人会計では資産としての性格を持ち続けるのです。
私が面接で「企業会計と学校法人会計の違いをどう理解していますか?」と質問すると、多くの経理経験者は戸惑います。しかし、「利益追求ではなく教育の継続が目的だから、会計の考え方も違うはずですよね。入職後に基準書を読み込んで学びます」と答えた方は、柔軟な姿勢が評価されました。
予算管理の考え方が根本的に異なる
民間企業では「予算は達成すべき目標」であり、予算に対する実績の達成率が評価指標になります。一方、大学では「予算は使える上限額」という意識が強く、予算を使い切らないことが美徳とされる文化があります。
企業では「予算100万円に対して実績90万円では、売上目標未達で問題だ」となりますが、大学では「予算100万円に対して支出80万円で、20万円節約できた」と評価されるケースが多いのです。このコスト削減志向は、公的な補助金を受けている教育機関として当然の考え方でもあります。
ただし、近年は「適切な投資によって教育の質を高める」という視点も重視されており、単に予算を削減すればいいわけではありません。「この支出は学生のために必要か」「費用対効果はあるか」を常に考えるバランス感覚が求められます。
メーカーで予算管理を担当していた30代の男性は、「民間では予算達成がゴールでしたが、大学では学生のための適切な支出を見極めることが重要だと理解しています」と述べ、考え方の違いを理解している点が評価されました。
業務の進め方・スピード感の差
民間企業の経理部門では、月次決算は翌月5営業日以内、四半期決算は1ヶ月以内といった厳格なスケジュールで業務を進めるのが一般的です。一方、大学の財務部門は、年度決算が中心であり、スピード感は民間企業ほど求められないことが多いです。
これは「大学の業務がゆっくりで楽」という意味ではありません。大学には学事暦という独自のリズムがあり、入試時期や新学期、補助金申請のタイミングなど、年間を通じて異なる業務が発生します。経理部門も、文部科学省への報告書類作成や、監事監査・会計監査人監査への対応など、教育機関特有の業務に追われます。
また、大学では稟議や承認プロセスに時間がかかる傾向があります。民間企業では部長決裁で即決できることが、大学では理事会や評議員会の承認が必要になるケースもあります。「スピード重視で改革を進めたい」と考える経理経験者には、この意思決定の遅さがストレスになることもあります。
実際に内定を得た30代の女性は、「前職では月次決算のスピードが求められましたが、大学では年間を通じた正確性と、教職員への丁寧な説明がより重要だと理解しています」と答え、適応力の高さを示しました。
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2024年10月時点では、以下の大学の情報を掲載しています。
秋田公立美術大学、大妻女子大学、追手門学院大学、桜美林大学、香川大学、学習院大学、神奈川大学、関西大学、関西学院大学、神田外語大学、北九州市立大学、九州工業大学、共愛学園前橋国際大学、京都光華女子大学、金城学院大学、慶應義塾大学、高知大学、国際基督教大学、国士館大学、滋賀県立大学、実践女子大学、淑徳大学、順天堂大学、常翔学園(大阪工業大学・摂南大学・広島国際大学)、上智大学、成蹊大学、成城大学、西南学院大学、玉川大学、多摩美術大学、千葉大学、中央学院大学、津田塾大学、東京医科大学、東京造形大学、東京電機大学、豊田工業大学、名古屋市立大学、福岡教育大学、福岡工業大学、福岡女子大学、藤田医科大学、星薬科大学、武蔵大学、武蔵野大学、明海大学、明治薬科大学、名城大学、ものつくり大学、山口県立大学、横浜市立大学、立命館大学、琉球大学、早稲田大学
経理経験者が狙うべき大学職員の配属先
経理経験を最大限に活かせる配属先は、財務・会計部門だけではありません。大学の組織構造を理解し、自分のスキルが活かせる部署を戦略的に狙うことが、転職成功の鍵となります。
財務部・経理部(最も経験を活かせる)
経理経験者が最もストレートに力を発揮できるのが、財務部・経理部です。大学の財務部門では、以下のような業務を担当します:
- 日常的な会計伝票の起票・仕訳処理
- 決算業務(資金収支計算書・事業活動収支計算書・貸借対照表の作成)
- 予算編成と執行管理
- 補助金申請に関わる会計処理と報告書作成
- 監事監査・会計監査人監査への対応
- 資産管理(固定資産台帳の整備、基本金管理)
特に中堅私立大学では、財務部門の人員が限られているため、幅広い業務を一人で担当することが求められます。上場企業で決算業務を経験した方や、税理士事務所で複数の法人を担当した経験がある方は、即戦力として高く評価されます。
実際に私が面接を担当した30代の男性は、メーカーで10年以上の経理経験があり、「学校法人会計は初めてですが、複式簿記の原理は同じです。これまで同様に自ら積極的に学び、先輩職員にも教えを請いながら、3ヶ月で独り立ちします」と明言しました。入職後、彼は宣言通り短期間で学校法人会計をマスターし、今では後輩の指導も担当しています。
総務部・管理部門(予算管理で強み発揮)
総務部や管理部門では、大学全体の予算編成・執行管理を統括する役割があります。各部署から上がってくる予算要求を査定し、限られた財源を適切に配分するには、経理的な視点が不可欠です。
また、総務部門では以下のような業務でも経理経験が活きます:
- 人件費予算の管理(給与・賞与・退職金の予算編成)
- 施設管理費用の分析と適正化
- 経営会議資料の作成(財務データの可視化)
- 中期経営計画における財務シミュレーション
私が相談を受けた30代の女性は、商社で経営企画の予算管理を担当していました。彼女は「各部門の予算をまとめて全社視点で最適化する仕事がしたい」という志望動機を明確に語り、総務部への配属が決まりました。経理の専門性に加えて全体最適の視点を持っていることが評価されたのです。
研究支援部門(科研費管理で需要高)
意外かもしれませんが、研究支援部門でも経理経験者は強く求められています。特に研究が盛んな大学では、科学研究費助成事業(科研費)をはじめとする競争的資金の管理が重要な業務となります。
科研費管理では、以下のようなスキルが必要です:
- 研究費の適正な執行管理(不正使用の防止)
- 複数の研究プロジェクトの並行管理
- 研究者への経理ルール説明とサポート
- 助成機関への報告書作成と実績報告
- 監査対応(科研費の監査は厳格)
企業で複数プロジェクトの予算管理を経験した方や、コンサルティング会社でクライアント別の原価計算を担当した方は、この分野で力を発揮できます。また、研究者は会計の専門家ではないため、専門用語を使わずに分かりやすく説明する能力も求められます。
私が面接した40代の男性は、IT企業でプロジェクト別の原価管理を担当していました。「研究者の先生方が研究に専念できるよう、経理面でサポートしたい」という明確な志望動機を語り、研究推進部への配属が決まりました。彼は入職後、研究者向けの「科研費使い方ガイド」を分かりやすく作成し、学内で高く評価されています。
▼大学職員転職・就職向けサポートサービスの紹介▼
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<提供されている主なサービス>
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★大学職員への就職をサポートします(出品者:akirahei@就活アドバイザーさん)
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★大学職員へのなり方、伝授します(出品者:キャリアコンサルタント コウさん)![]()
★勤務20年!国立大学 事務職員の本音教えます(出品者:ぱりっとさん)
選考で経理経験を効果的にアピールする方法
経理経験があれば自動的に評価されるわけではありません。面接官に「この人なら大学でも活躍できる」と思わせるためには、戦略的なアピールが必要です。
職務経歴書での具体的な実績の書き方
職務経歴書で最も重要なのは、「何をしたか」ではなく「どんな成果を出したか」を具体的に書くことです。経理経験者によくある失敗は、業務内容を羅列するだけで、成果や工夫が伝わらないことです。
以下の2つの書き方を比較してください:
【NG例】
月次決算業務を担当。仕訳入力、残高確認、決算資料作成を行った。
【OK例】
月次決算業務を担当し、決算日数を従来の7営業日から5営業日に短縮。経営会議への報告を早めることで、迅速な経営判断に貢献した。また、仕訳入力ミスを前年比30%削減するため、チェックリストを作成し部内で共有した。
OK例では「7営業日→5営業日」「ミス30%削減」という具体的な数字と、「経営判断に貢献」「チェックリスト作成」という工夫や成果が明確に伝わります。
また、大学職員の選考では「学生のために働きたい」という教育への関心も重視されます。職務経歴書の最後に「志望動機」欄があれば、「正確な財務管理を通じて、学生が安心して学べる環境づくりに貢献したい」といった一文を加えると効果的です。
面接で伝えるべき3つのポイント
面接では、以下の3点を明確に伝えることが重要です:
1. 経理経験の具体性と実績
単に「経理を5年やっていました」ではなく、「月次決算を担当し、正確性とスピードを両立させるために○○の工夫をしました」と具体的に語る。数字を使った実績があれば必ず伝える。
2. 大学特有の会計への理解と学ぶ姿勢
「学校法人会計は初めてですが、事前に基準書を読み、企業会計との違いを理解しました。入職後は先輩職員に教えを請いながら、早期に戦力になります」と、準備と学ぶ姿勢を示す。
3. 経理以外の業務への柔軟性
「経理が専門ですが、前職では他部署との連携も多く、総務や人事のサポートも経験しました。大学では幅広い業務に対応したいです」と、柔軟性をアピール。
実際に内定を得た30代の女性は、「前職では経理部門に閉じこもらず、営業部門に出向いて予算の使い方を一緒に考えました。大学でも、財務の立場から各部署をサポートしたいです」と語り、コミュニケーション能力と協働姿勢が高く評価されました。
大学特有の会計への理解度を示す質問例
面接の最後には「何か質問はありますか?」と聞かれます。このとき、大学の会計に関する質問をすると、準備の深さと本気度が伝わります。
以下は、面接官の立場から「よい質問だな」と感じた実例です:
- 「財務部門では、補助金申請に関わる業務の比重はどのくらいでしょうか?」
- 「中期経営計画の財務目標として、帰属収支差額率の目標値は設定されていますか?」
- 「会計監査人監査では、どのような点が重点的にチェックされる傾向にありますか?」
これらの質問は、事前に学校法人会計の基礎知識を学んでいないと出てこないものです。「基準書を読んできました」と口で言うだけでなく、具体的な質問で理解度を示すことが、面接官の信頼を勝ち取るポイントです。
逆に避けるべきは、「残業時間はどのくらいですか?」「年収はいくらくらいになりますか?」といった待遇面だけの質問です。これらも知りたいことではありますが、最初の質問にするのは避けましょう。
注意点・よくある間違い
経理経験者が大学職員の選考で不採用になるケースには、共通するパターンがあります。面接官の立場から、特に注意すべき3つの間違いを指摘します。
専門用語を並べすぎて説明能力が伝わらない
経理の専門知識が豊富な方ほど、面接で専門用語を多用しすぎる傾向があります。「前職では連結決算におけるセグメント別のPL分析を担当し、IFRS対応も経験しました」といった説明では、面接官が財務の専門家でない限り、何がすごいのか伝わりません。
大学職員は、財務の専門家だけで構成されているわけではありません。学生対応をする職員や、教員との連携が必要な部署も多く、専門知識を分かりやすく説明する能力が求められます。「複雑な会計基準を、会計の知識がない人にも理解してもらえるよう説明した経験」があれば、それを具体的にアピールしてください。
民間経理の効率性ばかり強調してしまう
「前職では月次決算を3営業日で完了していました。大学でも同じスピードで業務を進めたいです」といった発言は、一見すると意欲的に聞こえますが、大学の文化や実情を理解していない印象を与えてしまいます。
大学の業務には、教員や他部署との調整、稟議や承認プロセスなど、民間企業とは異なる時間のかかる要素があります。「効率化すればいい」という姿勢だけでは、現場の反発を招く可能性があります。
むしろ、「前職では効率化を進めてきましたが、大学には大学の文化やペースがあると理解しています。まずは現状を把握し、改善できる部分があれば提案させていただきたいです」といった謙虚で柔軟な姿勢を示すことが重要です。
実際に内定を得た40代の男性は、「民間企業の効率性は武器ですが、それを押し付けるのではなく、大学の良さを理解した上で、できる改善を提案したい」と語り、バランス感覚が評価されました。
簿記資格を過信して実務経験を軽視する
「簿記1級を持っているので、大学の会計も問題ありません」という発言は、資格への過信として受け取られる可能性があります。簿記資格は知識の証明にはなりますが、実務での応用力やコミュニケーション能力を保証するものではありません。
面接官が知りたいのは、「資格があるかどうか」ではなく「実務で何ができるか」「どんな成果を出してきたか」です。資格をアピールする際は、必ず実務経験とセットで語ってください。
例えば、「簿記1級を取得し、その知識を活かして前職では○○の業務改善を実現しました。大学でも、学んだ知識を実務に活かして貢献したいです」といった流れであれば、資格と実務の両方をバランスよく伝えられます。
逆に、簿記1級を持っていても、「前職では単純な仕訳入力しか経験していません」では、評価は高くなりません。資格よりも実務での成果と学ぶ姿勢が重視されることを理解してください。
経理経験者が準備すべき3つのこと
大学職員への転職を成功させるためには、応募前の準備が不可欠です。特に経理経験者が押さえるべきポイントを、キャリアコンサルタントとして実際にアドバイスしている内容に基づいて解説します。
学校法人会計の基礎知識を学ぶ
面接で「学校法人会計は勉強していますか?」と聞かれたときに、「入職後に学びます」と答えるのと、「基準書を読み、企業会計との違いを理解しました」と答えるのでは、面接官の評価が大きく変わります。
まず読むべきは、日本私立学校振興・共済事業団が公開している「学校法人会計基準」です。全文を完璧に理解する必要はありませんが、以下のポイントは押さえておきましょう:
- 資金収支計算書・事業活動収支計算書・貸借対照表の3つの決算書類の役割
- 基本金の概念(4つの基本金の違い)
- 帰属収支と消費収支の違い(2015年改正前の用語も知っておくと良い)
- 補助金収入の種類(国庫補助金・地方公共団体補助金)
また、実際の大学の財務諸表を見ることも有効です。志望する大学のIR情報ページで「事業報告書」や「財務状況」を公開しているケースが多いので、それを読み込んでおくと、面接での質問の質が格段に上がります。
私が相談を受けた30代の女性は、志望大学の過去5年分の財務諸表を分析し、「帰属収支差額率が低下傾向にありますが、これは○○が原因と推測しています。この課題に財務の立場から貢献したいです」と面接で語り、準備の深さが評価されて内定を得ました。
大学の財務状況をIR情報で調べる
志望する大学の財務状況を事前に把握しておくことは、選考対策として非常に有効です。大学のWebサイトには、通常「情報公開」や「大学案内」のページに、以下のような情報が掲載されています:
- 事業報告書(決算情報)
- 中期経営計画・中期財務計画
- 定員充足率や志願者数の推移
- 外部資金(科研費など)の獲得状況
これらの情報を読み込むことで、「この大学は定員割れが続いており、学生募集強化が課題だ」「補助金収入が減少傾向にあり、自己収入の拡大が必要だ」といった経営課題が見えてきます。
面接では、「御学の財務諸表を拝見し、○○という課題があると感じました。私の経理経験を活かして、△△の面で貢献できると考えています」と具体的に語ることで、志望度の高さと分析力をアピールできます。
実際に、ある40代の男性は、志望大学の帰属収支差額率が低下傾向にあることを指摘し、「コスト構造を分析して、削減余地のある経費を洗い出すことができます」と提案し、面接官から高評価を得ました。ただし、批判的なトーンにならないよう、「課題はあるが、だからこそ自分が貢献できる」というポジティブな文脈で語ることが重要です。
経理以外の業務にも対応できる柔軟性をアピール
大学職員は、特に中小規模の大学では総合職としての役割が求められます。財務部門に配属されても、学生対応や教員との連携、イベント運営のサポートなど、経理以外の業務が発生することもあります。
「経理一筋でやってきたので、それ以外はできません」という姿勢では、大学職員としての適性を疑われます。以下のような経験があれば、積極的にアピールしてください:
- 他部署との連携プロジェクトに参加した経験
- 社内研修や新人教育を担当した経験
- 顧客対応や営業サポートを経験した
- ボランティアや地域活動に参加している
私が面接した50代の男性は、「前職では経理部門でしたが、社内のコスト削減プロジェクトに参加し、営業部門や製造部門とも協力して全社的な改善を進めました。大学でも、財務の立場から全体を見て、各部署と協力して働きたいです」と語り、協働力と柔軟性が評価されました。
また、「学生と接する機会があれば、積極的に関わりたい」という姿勢を示すことも効果的です。「教育に関わる仕事がしたい」という教育への関心が伝わると、大学職員としての適性が高く評価されます。
まとめ
この記事では、経理経験者が大学職員に転職する方法について、現役面接官の立場から解説しました。重要なポイントを3つに整理します:
- 経理経験は確実に有利だが、学校法人会計への理解と適応力が鍵:簿記の基礎知識は共通ですが、会計基準や業務の進め方には違いがあります。事前に学校法人会計の基礎を学び、柔軟に適応する姿勢を示すことが選考突破のポイントです。
- 専門性だけでなく、コミュニケーション能力と協働姿勢が求められる:大学職員は総合職的な役割が多く、経理の専門知識を分かりやすく説明する力や、他部署と協力して働く姿勢が評価されます。専門用語を並べるのではなく、実務での成果と人との関わり方を具体的に語ってください。
- 志望大学の財務状況を分析し、貢献できる点を明確にアピール:IR情報で財務諸表を読み込み、経営課題を理解した上で、「自分の経験がどう役立つか」を具体的に語ることで、準備の深さと志望度の高さが伝わります。
経理経験は、大学職員への転職において強力な武器です。しかし、その武器を「学生のために使いたい」という教育への想いと組み合わせることで、初めて面接官の心に響くアピールになります。
次のステップとしては、まず志望大学のIR情報を確認し、学校法人会計の基礎を学ぶことから始めてください。そして、自分の経理経験を「大学でどう活かせるか」という視点で整理し、職務経歴書と面接対策を進めていきましょう。準備をしっかり行えば、経理経験者は大学職員転職で確実に有利に戦えます。
